2025.01.15
物理学書『熱力学および分子統計論―生命物理科学の基礎―』(杉田元宜著、井口和基編)、1月15日付で初版を発行しました。
「天才の挑戦:生物と物理をつなぐ新たな地平」
本書は、1957年に南江堂から出版された、科学の歴史において重要な一冊です。当時500円で発売されたこの書籍は、日本の科学界で稀代の天才とされる杉田元宜博士の研究と挑戦を記録したものです。杉田博士は、文系学生が多い一橋大学経済学部の教授という立場にありながら、物理学や電気回路学を学生たちに教え、彼らにアナログ計算機を製作させました。そして、その計算機を使って、当時最先端のデジタル制御による数値計算を実行するという試みに挑んだのです。
学生たちは、自分たちが直面する課題を解決するための電気回路を設計し、その解をオシロスコープで観測しました。これは、生物学におけるデジタル理論をアナログ計算機でシミュレーションするという、非常に独創的なアプローチでした。1960年代初頭の日本ではまだ大型コンピューターの導入が進んでいない時代に、杉田博士は限られたリソースを最大限に活用し、新しい科学的手法を切り開いたのです。
杉田博士のアイデアは、当時の英米の最先端科学者たちに強い影響を与えました。特に、イギリスのグッドウィン氏やアメリカのカウフマン氏にとっては、研究の新たな方向性を示すきっかけとなりました。カウフマン氏は、杉田博士の理論をアメリカの大型電子計算機を使って拡張し、複雑ネットワークという新たな研究分野を創出しました。杉田博士の構想は、このようにして国際的な科学界でさらに進化を遂げたのです。
本書は、杉田博士が1950年代後半に執筆した研究の集大成です。戦前には東京帝国大学で物理学を専攻し、戦中には小林理学研究所で研究を行った杉田博士は、結核を患いながらも物理学の根本に対する深い洞察を得ました。その中で提唱されたのが「熱力学の第四法則」です。この法則は「|dG/dt|= max」と定義され、生命の物理学的原理を説明する鍵とされました。本書では、この法則を念頭に置きつつ、従来の熱力学を再解釈し、新しい理論体系を提示しています。
この書籍は、単なる学術書にとどまりません。科学的な限界に挑み続けた杉田元宜博士の思想と革新の過程を、後世の科学者たちに伝える記念碑的な存在です。自身の研究に新たな視点を取り入れたいと考える研究者や学生にとって、本書は間違いなく刺激となるでしょう。杉田博士の先見性と創造力を再発見し、現代の科学にどのように応用できるかを考えるきっかけとして、ぜひ手に取ってみてください。